フィルム写真と版画写真
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写真のフィルムには光が通過できる「孔」がある。
その構造から、写真は版画と似ていると思う。
版画の中でも孔版と呼ばれる版種についてだ。
そんな理由から、光の版画がフィルム写真だと言っても良いかもしれない。
フィルムに写った写真は印画紙にプリントするのが一般的だが、紙の上に印刷された写真も一種のプリント方法でもある。
撮影されたものを目に見えるように細工することを「現像」というなら、シルクスクリーンで印刷された版画作品も写真現像の一種といえるだろう。
しかし、版画は一般的には「印刷物」という概念で捉えられることが多い。
その辺の差異を最近興味深く思えるようになってきた。
ガム印画という古典印画法は水彩絵の具の顔料を使って写真を定着する技法だ。
科学的な銀の変化ではなくて、物理的に顔料が画像を作るピグメント法である。
そういう点ではシルクスクリーンの写真製版と似ている。
ネガ状のフィルムを使ってシルクスクリーンの版は焼き付けられるが、それは原理としてガム印画と同じである。つまりスクリーン上にプリントされた画像をインクで刷り上げるのがシルクスクリーンであるからだ。
ここで強引に「写真は版画である」という定義するならば「版画は写真である」という逆定義も可能かもしれない。現像方法として版画技術を捉えることに関してである。
写真を印刷しようとすると、多くの場合規則正しく並んだドットの大小によってグラデーションを再現する、いわゆる網分解という方法が採られる。
古くはウオーホルのマリリンモンローのようにコピーを使ったハイコントラストの写真表現もあるが、
シルクスクリーンという印刷法ではこのような二つの方法でこれまで写真イメージを再現してきたのである。
しかし、これらの方法で写真をプリントすると「版画」という分類の印刷物になってしまう。
近頃考えていることは、あくまで写真現像をしているのだと言う観点に立った版的な作業を試みることである。
写真イメージの再現性について版を使う技術についてである。
できあがったものが「写真」に分類されるような、眼の触覚に訴えるものが作りたい。
かつて、版画の複数性が重要視された時代もあったが、今日では表現として必ずしも必要な要素ではない。
一枚しかできなかったダゲレオタイプのように、貴重な一枚を作ることも版画技法を用いた写真のあり方かもしれない。
2021/02/27
カメラは毎日持って出かける。
デジタルカメラを使うようになって久しいが、最近はフィルムで撮影することが多い。
「雑巾がけ」と呼ばれる、バライタ紙に焼いたモノクロ写真への着色法を始めたことが原因だ。
これは暗室作業による手工的な作業を経てできあがった写真イメージに手工的な方法で着色を施すものである。
プリントした印画紙に油絵の具を塗りつけ、布で拭き取るなどして手を加える。
その様子が雑巾をかけるようなので「雑巾がけ」という名称で呼ばれ1920-30年頃おもに日本で流行した。
フィルム写真の衰退によって、暗室用品や感光材料の種類が激減している。
先日、ある目的のためにFUJIFILM製のRCペーパーを買おうとしたら、製造中止ということで店頭から消えていた。
2号紙・3号紙あたりの印画紙をよく利用していたが、もう印画紙ごとにグレードを選ぶことができなくなった。
多諧調印画紙への移行は以前から知っていたが、古典的な「号紙」という表記の印画紙が消えたことになる。
雑巾がけで使用するのはバライタ紙で、近年バライタを使った雑巾がけも試みてきたがどうもしっくりいかない。
先日「Ilford Multigradeアート300」という印画紙に出会い、これを使ったら雑巾がけが楽しくなった。
いずれこの印画紙も製造中止になるのだろう。
そう思うと、今やらないと・・・という気持ちになってフィルム撮影を再開した。
「100ft長巻き」という、いわゆる「長巻きフィルム」をヨドバシカメラに買いに行ったら、フィルム売り場の若い店員はその存在を知らなかった。
当然、店頭には品物がなくて・・・時代だなあと思った。
しかし、ネットで検索したらいくつかまだ売られていた。
「ARISTA EDU ULTRA 400 白黒ネガフィルム 135-100ft長巻き」というチェコ共和国製のものを見つけ購入した。
言うまでもなく、価格の安さとチェコ共和国製という珍しさに惹かれたのである。
自分はこういう選び方をよくするが、今回は危険な選択のような気もする。
冷蔵庫の中にはKodak TRI-X400の長巻きが一本入っているので、今使っているKentmere100が終わったら次はTRI-X400だ。
品物がなくなる心配から、もう一本購入しておかないと・・・という不安感に駆られ、これが良くないな。
こういうことはキリがないから困る。
次はTRI-X400を買う。
ゆったりした時間の中で撮影がしたい。
撮影フィルム消滅へのカウントダウンの中で焦るが、撮りたいものやアイデアがどんどん現れる訳ではない。
2021/02/16
安原製作所(http://www.yasuhara.co.jp/top.html)の店主、安原伸さんが亡くなった情報をたまたま知った。
昨年の3月22日のことらしい。
京セラを退社してから一人で事業を興し、カメラやレンズを製造していた。
安原製作所は、知る人ぞ知る、趣味性の高いカメラメーカーだった。
僕も「MOMO 」と言う、ベス単レンズをベースに製作されたレンズを一本だけ持っている。
レンズのくせに、MOMOとは変な名前だ。
安原さんは、ベス単と同じように「100年前の画が撮れるので、MOMO(モモ = 百)」と名付けたそうだ。
竹でできたモノサシも安原製作所のサイトを介して買ってみたことがある。
なぜかそんなものまで作っていた。
お知らせページ(http://www.yasuhara.co.jp)に、寂しい文面があった。
フィルムカメラの隆盛期とその終焉を、ともに通過してきた僕にはとても感慨深い。
1999年、安原製作所が作った「安原一式」や2003年の「秋月」というレンジファインダーカメラが話題になったこともあり、当時僕も欲しいと思った事がある。
カメラ趣味を持つものの心をくすぐるカメラだった。
「安原製作所回顧録」という文庫本も著していて、この本はとても面白かった。
先ほど、本棚からこの「安原製作所回顧録」を取り出し開いてみたら、中に千円札が一枚挟まれていた。
記憶にない千円・・・。
札を栞代わりにするほど無粋ではないので、この千円のことが気になって仕方ない。
2021/02/01